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となりのチカラはファシリテーター

「となりのチカラ」というドラマを見た。
新時代の《中腰ヒーロー》は、素晴らしいファシリテーターだった。

物語はチカラ君一家(夫妻と子ども2人)がマンションに引っ越してくるところから始まる。チカラ君は何をするにも優柔不断。いつも家にいるのに、ブティックの店長として忙しく働いている妻がほとんどの家事をこなしている。姉娘は反抗期なのかいつも不機嫌で、なんでも数字で表現したがる。弟は勉強ができないが素直で明るい。最近は手旗信号に凝っている。
マンションの中庭のブランコに座っている元気がない女の子がいた。チカラ君は「隣に座ってもいいですか?」と声をかける。女の子は暗く沈んだ表情を変えない。
チカラ君は女の子に話しかける。
「何もしてあげられないけれど、話を聞くことは得意だ」と優しく話しかけるチカラにやがて女の子は心を開き始める。

マンションにはさまざまな問題を抱えた住人が住んでいる。DV、毒親、認知症、ヤングケアラー、猟奇的殺人、被害者の心の傷などなど、現代の社会問題を詰め込んだ幕の内弁当のようだ。
チカラ君は他人の問題に無関心ではいられない。何かできることはないかと常に周辺をうろうろする。親身になって話を聞き、アドバイスをする。
その時に力は必ず言う。
「何もしてあげられないけれど、話を聞くことは得意だ」

最初は心を許さなかった人たちがやがてチカラ君を頼りにして問題を解決していく。
以前のドラマであれば、ここで終わったのではないだろうか。
中腰でもなんでも、とにかくチカラ君は《ヒーロー》なのである。みんなに頼りにされて、これからもこのマンションの問題は力君が解決していくんだろうなと思わせて《完》の字が出る、そんなめでたしめでたしの終わり方を予想していた。

ところがこのドラマは、ここからが本当の始まりなのである。
チカラ君の妻であるアカリちゃんが家を出てしまうのである。
他人の困りごとに首を突っ込みすぎて、家庭の中に目を向けていなかったチカラ君には何があったのかわからない。
妻の家出の理由に思い当たる事ができないチカラ君は、周りの人たちの話を聞くどころではなくなる。アドバイスを求められても思いつかない。しかも、「チカラさんのアドバイスで私たちはこんなに酷い目にあった」と責め立てられるのである。

チカラ君は自分では「みんなのために」と思って頑張っていた。けれどその根底には「カッコつけたい、このマンションの中心は自分だ」という気持ちがあったのである。
しかもアドバイスや親切は対処療法であり、根本的な解決には至らないので時間が経つとまた新しい問題が起こる。問題が起きた時に人々は、チカラ君に対して感謝の気持ちを忘れて、怒りの感情が沸き起こる。
住民から総スカンされ、チカラ君は「何もしない」と不貞腐れてしまう。
チカラ君の凄いところは、そこから内省にはいっていくところである。
チカラ君は自分の悪かったところを認め、みんなに謝罪する。
そして、自分の役割は「話を聴く」ことだと気がつくのである。
その人の課題はその人が自分で解決するしかない、その時にはアドバイスではなく、ただただ話を聴くことが大切なのである。
課題は解決出来るものと出来ないものがある。ほとんどの課題は自分の力だけでは解決できない。そんな時には、ただ黙って話を聞いてくれる人がそばにいることが有益なのである。

チカラ君のしていることは、ファシリテーターと同じである。ファシリテーターは寄り添い、その人の持つ力を引き出していく。人を信じ、力づける。そして、間違って方向に行こうとしている時には、間違いに気がつくことができるようにさりげなく声をかける。

このシンプルな行為をすることがものすごく難しい。
ついつい、アドバイスをしてしまう。
話を聴くのではなく、演説をしてしまう。

ファシリテーター型リーダーが出現し始めて数年になる。
社会ではまだまだ広がらない。
ドラマ「となりのチカラ」の出現は、ファシリテーターの広がりを予見させると密かに期待しているのである。
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